BIGLOBE 30YEARS

未来予報 20XX

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慶應義塾大学 政策・メディア研究科
特別招聘教授 夏野剛さん100年後、「人類の進化が
加速した」と言われる時代が
いま、始まろうとしています。

エヌ・ティ・ティ・ドコモで世界初の携帯電話向けインターネットサービス・iモードを創り上げた夏野剛さん。テクノロジーが私たちの生活に組み込まれていく姿を見つめてきた、キーマンのひとりだといえます。そんな夏野さんに、未来はどんな社会になるのか、そのためにどんな準備をすればよいのか、伺ってみました。

1965年3月17日、神奈川県生まれ。
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。1993年にペンシルベニア大学ウォートン校の経営大学院に留学、1995年に経営学修士(MBA)を取得。株式会社ハイパーネットに社外ブレーンとして参画。海外戦略担当副社長に就任。エヌ・ティ・ティ・ドコモにてマルチメディアサービス部の部長や執行役員などを歴任。松永真理らとともにiモードを起ち上げる。慶應義塾大学の大学院にて政策・メディア研究科の特別招聘教授に就任。また、ドワンゴで取締役などを務めるとともに、十数社の社外取締役を兼任する。

テクノロジーの果実を掴むための、社会変革が始まります

PC-VANが登場した1986年から、ビッグローブへと変化する96年までの10年間は、正直に言ってしまえば、インターネットはまだまだパソコンオタクだけのものでした。一般に向けてインターネットの商用化が始まったのは、アメリカでNetscapeやYahoo!が生まれた94年から。日本ではビッグローブもスタートした96年からと言えるでしょう。

その時期の自分を振り返ると、86年の頃の僕は、PC通信をガンガン使っていたパソコンオタクでした。アメリカでインターネットが商用化された94年はちょうど、ペンシルベニア大学ウォートン校の経営大学院に留学していました。大学院では「インターネットがリアルビジネスをどう変えていくか」という授業があったんですよ。その授業を受けたとき、趣味と実益の一致が起こり「これだ!」と思いましたね。

それで95年に帰国して96年にインターネット事業を始めるんです。しかし、97年に大失敗。日本ではまだ、インターネットが爆発していなかった。ちょっと、早すぎた(笑)。しかたなく、97年に入ったエヌ・ティ・ティ・ドコモで「資本金と携帯電話をベースにインターネット革命を起こしてやろう」と思って作ったのが、「iモード」です。

次の1996年から2016年までの20年は、インターネットの「黎明期(れいめいき)」でした。「まだ黎明期だったの?」と思われるかもしれませんが、IT革命がすさまじい勢いで起こったにも関わらず、日本では経済効果にあまり結びついていないからです。事実、「日本の生産性の動向2015年版」によると、2014年の日本の労働生産性は、OECD加盟34か国の中、21位。主要先進7か国で最も低い水準。実はこの20年間、日本のGDPは成長していないのです。

しかしこの時期、アメリカではワークスタイル、マネージメント、あるいは法律といった社会システムそのものが、デジタル時代に適応して変革を起こしたことで、社会全体の生産性が上がっています。過去20年で見ると、アメリカのGDPは130%以上も成長していることになります。

翻って日本では、テクノロジーを生み出す潜在力はあるにも関わらず、社会のシステムはあまり変わっていない。たとえば、大企業の役職や仕事の分担、時間で決める労働スタイルなど、いまだにおかしなシステムが残っています。年功序列、終身雇用、新卒一括採用なんて時代遅れもいいところ。日本の頭の古い、同じ釜の飯を食ってきた取締役たちだけで作られた現状肯定モデルでは、おかしなシステムはなかなか変えられないんです。

やっと日本でも社外取締役が義務づけられるようになって、僕も一部上場企業だけで8社の社外取締役をさせていただいていますが、会議で社内の役員が言わないような異論を述べるとパニックが起こるんです。「そんな話、いままでの取締役は誰もしなかった」と。社内の常識は社外の常識ではないということを、そこで初めて知るわけです。

いずれにせよ、これからの日本は成長を遂げないといけない状況に追い込まれています。大きな要因のひとつは人口減少。このマイナス影響を乗り越えて生産性を高めなければ、現状レベルの生活さえ維持できないところにまで来ています。それに加え、団塊の世代が定年を迎えることで、一気に労働力不足になります。労働力は流動化し、特に管理職クラスはヘッドハンティングが常態化します。

こうしたところから私たちは、テクノロジーの果実を掴むため社会のシステムを変革し、社会的必然として生産性を上げていかなければなりません。

すべての通信は、30年以内に「電脳化」されます

では、そんな来るべき未来をどう迎えればよいのか。まず前提として、テクノロジーの進化が加速し、その社会適応が想像を上回るペースでどっと進みます。例えば、すべての通信は今後30年以内で必ず、「電脳化」されると僕は考えています。デバイスは脳が直接、ネットにつながるためのものに変化する。つまり、いまのような人間が操作するようなデバイスではなくなるでしょうね。

「電脳化」社会が実現すると、あらゆる社会のシステムが変わります。たとえば、現在の受験勉強なんてまったく意味がなくなってくるでしょう。暗記していたことや計算していたことは、脳と直結したコンピュータが処理すればいい。そうなると、日本の受験産業はなくなってしまう。それどころか、教育そのものが変わっていく。均一教育は意味を持たなくなってくる。それより多様性教育をどうするかが重要となるでしょうね。

AI、あるいはコンピュータが得意な分野は、間違いなく人間を超えます。人間はコンピュータの得意な暗記と計算で勝負しているようではダメ。そういう部分はコンピュータに任せてしまう。年功序列だとか、過去の経験に基づいた経営判断をしている経営者、同じ釜の飯で過去の経験に基づいて経営判断をしてきた取締役たちは、一番最初にAIに取って代わられますよ。

僕はこれからの人間に必要なものは、2つの「そうぞうりょく」だと思います。イマジネーションの「想像力」とクリエイティブの「創造力」。これらは人間の方が得意です。なぜなら、想像と創造は過去の引用ではないから。新しいものを作るのはAIには難しいんです。もっと言えば、過去から学習しても未来は作れない。面白いものが出てきたり、『えっ、こんなものが』というものが出てくるのが未来です。

暗記や計算の教育ではなくて、自分の好きな分野でどんどんイマジンし、クリエイションすることを磨く教育で、社会を変えていかないといけません。技術が出てきてそれに社会が適応するんじゃなくて、こんなふうに変わる、ということを見越して、社会を先に変えていかないといけない時代が来るんです。

私たちはいま、“わくわくする時代”に生きています

テクノロジーが人間にとって代わる、ディストピアな時代が来るというのは違います。それは今と同じ仕事を同じように30年後も続けたい人が言っている話。今やっていることが30年後に価値があるわけないじゃないですか。だから、違うことをやればいいんですよ。もっと好きなことをやりましょうよ。どうせ仕事なんてイヤイヤやっている人が多いんだから。どうして、そんな仕事を30年後も守らないといけないんですか。

逆に言うと、やりたくてやっている仕事は絶対にテクノロジーに取って代わられはしません。だから、自分に向いている仕事に自分を置くことが重要です。ひとつの会社に入って未来永劫、そこで働くなんてナンセンス。終身雇用制なんて、奴隷制度と同じくらいにひどい制度ですよ。

好きなことが何かわからないという人が好きなことを探す基準は、簡単です。「それをやっていると、どんなに時間がかかっても苦にならないほど、のめり込めるか?」ということです。僕は「石の上にも3か月」とアドバイスしています。昔は3年いないと情報が集まらなかった。けれど、今は3か月で充分。3日じゃちょっと短い(笑)。でも、3か月ごとにいろんなことを試せば、ひとつくらいは当たる。そうやって試行錯誤することが大切です。

若い人は好きなことを突き詰めるべき。これは真理です。でも「若い人」と世代をくくること自体が、実は間違いなんです。何歳でも頑張りたい人は頑張ればいいし、頑張りたくない人は頑張らないで、楽な道を選べばいい。社会を変えられる人というのは1%だけ。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズの偉人伝を読んだって、なんの参考にもならないですよ。

これからの未来は、実年齢なんて関係なくなります。10代でもできる人はできるし、60代でも70代でも働ける人は働く。「あの人はなん歳だから」と言う人は逃げているだけ。実力を見ないで、年齢とか学歴といったデータだけで判断しようとする。データは参考になったとしても、その人の能力じゃない。人の価値を判断できない人は、もうダメですよ。

これから起こる歴史的な変革は、明治維新の比じゃないですね。明治維新のころは個人が無力だった。でもいまは、いち個人の情報収集力が、組織の情報収集力と変わりません。組織じゃできなかったことが、一気になくなった。アイディアさえあれば、ひとりでお金も集められる。そんな“わくわくする時代”に生きているんだということを、我々はもう一度認識しないといけません。100年後、「人類の進化が加速した」と言われる時代が、いま始まろうとしているのです。

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